夜会の正礼装テールコートに次ぐ準礼装という位置づけですが、テールコートが廃れてタキシードが主流になりました。 日没以降に終わる行事はもちろん、午後からの行事であれば着用して構わないとするのが、最近の風潮です。 招待状に「ブラックタイ」の指定があればタキシード着用を意味します。
「ホワイトタイ」指定の催事は、日本では皆無と言ってよいでしょう。 現在では、宮中晩餐会でも準礼装のタキシードで通ります。 タキシードはアメリカ生まれのフォーマル衣装。 英国では「ディナージャケット」と呼び夜の準礼装ですが、米国をはじめヨーロッパの多くの国では、午後からの正装として広く使われています。
「ブラックタイ」の通称どおり、タキシードは黒の蝶ネクタイが基本です。 光沢のある拝絹の襟、ベストではなくカマーバンド、側章が1本縦に通ったズボン、スタッドボタンで留める立ち襟の白シャツ、これが正装の基本要素です。 上着の襟はショールカラーがスタンダードですが、テールコートと同じピークドラベルもよく使われます。
19 世紀からほとんど変わっていないテールコートと違い、タキシードのドレスコードは緩めです。 行事の格式や参加メンバーの顔ぶれに応じて、自由にコーディネートできるのが特徴です。 前項の基本要素は、「完全武装」の重装備で、実際にはこの装いでなければ通らない行事は稀です。 カマーバンドを省略したり、同伴者のドレスに合わせたカラー蝶ネクタイにしたり、比較的自由にアレンジできます。
タキシードの一番の特徴は、お腹に巻くカマーバンドです。上下があって、ひだが上向きになるようにします。 ポーカーのチップやコンサートのチケットがはさめるように… と覚えておきましょう。 タキシードはカマーバンドが盛り上がるのを嫌い、ベルトはしません。サスペンダー(黒)を使います。 もし簡略化するなら、カマーバンドを外すのが先でしょう。胸ぐりの大きいカマーベストに替えても構いません。 なおダブルブレストの上着はカマーバンドもベストも不要です。
タキシードはベストをしない着こなしが多いため、シャツの貝ボタンがモロ見えます。 これがダサイというので、鼓形のスタッドボタンで留めるのが正式とされています。 貝ボタンが見えない比翼仕立のシャツで代用することもできます。 両胸にプリーツ(ひだ)のついたピンタックシャツにすると、より一層お洒落です。 シャツの袖は折り返しのないシングルでも折り返すダブルでも構いません。 カフリンクス(カフスボタン)は黒蝶貝かオニキス(黒曜石)が正式です。タキシードは弔事には使いません。
欧米のパーティーにはダンスがつきもの。ドレスの裾を汚してはいけないと、靴墨を使うシューズを履かないのがエチケットです。 黒のエナメルパンプスか内羽式のプレーントゥが正式ですが、日本の靴屋ではあまり見かけません。 足元まで気にする人は少ないから、ダンスをしなければ普通の革靴でも通るでしょう。 靴下は無地の黒で座ったときに素肌が見えない長めのものを使います。タキシードはシャツ以外はすべて黒が基本です。
夜会の正装が燕尾服だった19世紀終盤に登場したのがタキシードです。 名前の由来はアメリカ東部にあるタキシードパークという地名です。 パークといっても公園ではなく、煙草で財をなしたロリラード家が開発した別荘地の名前です。 その倶楽部の舞踏会でロリラード家の御曹司が真っ赤な部屋着のまま現われ、衆目を集めたのが始まりと伝えられています。 名誉や地位のある人が変わったことをすれば流行するのは、昔も今も変わらないようです。 着替えるのをうっかり忘れたとか、御曹司は目立ちたがり屋だったとか、諸説ありますが真偽のほどは不明です。
フランスでは「スモーキングジャケット」、イギリスでは「ディナージャケット」と呼んでいます。 テールコートの代わりに着られるようになったので、本来は夜会の正装でした。 いまでも「タキシードは夜しかダメ」という国や地域がありますが、世界的に午後の正装として広く使われるようになりました。 燕尾服が1世紀以上にわたって変化しなかったのは、タキシードが自由にアレンジできたからかもしれません。 1960 年代後半のピーコック革命のころには、様々な色やデザインのものが登場します。 孔雀(ピーコック)の羽は雄のほうが美しいと、メンズ衣装は一気にカラフルになりました。 あれこれやった挙句、現在のオーソドックスなスタイルに落ち着いた形です。 結婚式で見かける新郎用にアレンジされたものは、ファンシータキシードとかデザインタキシードと言うべきで、本来の正装とは別物です。
フォーマル衣装の世界は奥深いものがあります。順次加筆していく予定です。