日本の伝統衣裳である和装きものは、外国でも正装の民族衣装として通用します。 テールコートが指定のノーベル賞授賞式で、文学賞の川端康成が羽織袴の紋服で出席した話は有名です。 ただし、相手が知らないからといって、普段着や浴衣はいけません。 日本国内と同じ格式の和服を着用するのがマナーです。
格式をいう行事の最高礼装は留袖です。結婚式では親族の定番衣装として使われています。 五つ紋の黒留袖が最も格式が高いとされていますが、色留袖でも五つ紋なら同格の扱いとなります。 留袖は、一般的に既婚女性の礼装とされており、未婚女性は振袖が正装ですが、 年齢が高い未婚女性の場合は、色留袖でも構わないというのが通説です。
黒留袖は武家で用いられた礼装で、宮家・公家では色留袖を使いました。 色留袖よりも黒留袖のほうが格上というのは俗説のようです。 現在、黒留袖はほとんどが五つ紋ですが、色留袖は三つ紋や一つ紋、あるいは無紋にすることがあります。 これを以って黒留袖が格上とする見方が広まったとも考えられます。
振袖には、袖の長さによって大振袖・中振袖・小振袖などがあります。 成人式などで着られる長さ 113cm 前後のものを単に「振袖」と呼ぶことが多いようです。 袖が長いほど格式が高いとされ、大振袖(長振袖)は花嫁の正装として使われます。 第一礼装は五つ紋ですが、振袖に限っては無紋でも構わないとされています。
訪問着は明治以降、近代になってから登場した礼装です。
既婚者の留袖、未婚者の振袖に次ぐ準礼装で、ミス・ミセスを問わず着用できます。
三つ紋、一つ紋、無紋で格式が異なります。
訪問着に次ぐ礼装に「付下げ」がありますが、絵羽柄以外に区別がつきにくく、同格とみなされるようです。
紋入りの「色無地」は付下げと同格の扱いです。
知人・友人の結婚式に、ミス・ミセスを問わず使用できます。
(家紋については弔事のところで採り上げます)
婚礼衣裳の主流が白無垢・打掛からウェディングドレスに替わったことで、男性親族の衣装は洋装になりました。 紋服(紋付袴)は新郎衣装として使われる程度です。 結婚式での新郎新婦の父親衣装は、現在はモーニングコートが主流です。 母親の留袖とは和洋折衷ですが、アフタヌーンドレスが定着していない日本では、しばらくこの状態が続きそうです。
一般の弔問客はともかく、身内の親族の場合、和装の喪服は無地の黒です。 帯も喪服用の黒を使います。格式の違いは紋の数だけで、色や柄は関係のない世界です。 明治時代まで、和装の喪服は白が主流だったそうです。喪に服す親族以外は、普段着でよかったと言います。 なぜ黒に変わったのかは諸説ありますが、皇室が西洋に倣って「弔事は黒の洋服」と決めたことと関係があるようです。
和装の喪服で格式の差が出るのは、紋の数くらいですが、 どういう紋を入れたらよいかは、家と地域によってまちまちです。 西日本では女性は「女紋」をよく使います。母から娘へ贈られるもので、家紋(男紋)とは別の紋です。 一方、東日本ではこの風習がない地域があります。 無用なトラブルを防ぐために、嫁ぎ先の風習を確認するのが無難です。 とくに決まりがないなら、紋は適当で構わないでしょう。
家紋は家を象徴するもので、家父長制の時代には男紋でした。 それに対して女紋があります。母から娘へと贈り継がれるものを母系紋と言います。 封建時代でも女性の財産権は保護されており、輿入れの際に持参する調度品には、嫁ぎ先とは別の紋を入れて区別していました。 よく使われたのが女紋です。実家の家紋では、嫁ぎ先に対して刺激が強すぎたからとも、 母親の財産管理能力を誇示する絶好の機会だったからとも言われています。
女紋でよく使われたものにアゲハ蝶があります。 サナギから蝶に変身する姿を嫁ぐ娘に重ね、母から贈られたそうです。 繁殖力が強いことから子宝に恵まれるようにと、蔦(つた)もよく使われました。 家紋制度が廃止されてからは、「人にあやかる」との意味で商家や遊女が好んで使ったそうです。 ほかにも地域ごとによく使われた女紋がありますが、最もポピュラーなのは、五三桐(ごさんのきり)です。 桐は鳳凰の止まる木とされ、五七桐は朝廷の替え紋です。 それを簡略化した五三桐は、広く庶民の間で重用されました。 この紋付の貸し借りは自由とされています。
フォーマル衣装の世界は奥深いものがあります。順次加筆していく予定です。